全固体電池とは
解説記事:全固体電池 | ||
これまでにない次世代電源で新たな市場を創生 |
一般に、全固体電池は電解液を使わないため、安全性、信頼性に優れた長寿命の電池と言われています。マクセルでは、創業事業である電池の設計開発、製造技術を活かし、次世代の電池である全固体電池の中でも、特に高出力、高容量∗1といった特長をもつ硫化物系全固体リチウムイオン電池の開発および量産に取り組んでいます。
実用化が待たれる全固体電池とは一体どのような電池なのか、詳しく解説します。
電解液を使わない二次電池
1800年ごろに発明されたボルタ電池以降、2種類の金属の組み合わせにより高い電圧を得るための試行錯誤が重ねられ、化学電池の基礎が作られました。
日本には1800年代に本格的に化学電池が伝えられ、その後国内で初めて電池の組立に成功しました。当時の電池には電解液がこぼれてしまうという難点があり、これを改良した「乾電池」が世界各地で開発されました。日本では、今日の乾電池につながる炭素棒を用いた構造の乾電池が発明され、世界から注目されました。
これがきっかけとなり、現在では、日本は世界でも有数の電池開発、製造の拠点となっています。
過去から現在に至るまでさまざまな種類の化学電池が作られてきましたが、なぜ全固体電池が必要とされているのでしょうか。
化学電池は、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する機構をもち、大きく正極、負極、電解質の3つの要素からなります。その中で、使い切りの電池を「一次電池」、充電して繰り返し使える電池を「二次電池」に分類し、通常はどちらも電解質に液体(電解液)を使用していました。
- 電池の分類や仕組みなどの基礎知識については、技術記事「技術イノベーションの源流 -電池の歴史と基本原理」をご覧ください。
電解液は、発火の恐れが少ない水溶液系のものから可燃性の有機系のものまで電池によって使い分けられています。
私たちに最も身近な存在の二次電池に「リチウムイオン電池」があります。
リチウムイオン電池は、主に正極と負極、それらを分けるセパレータ、そして電解液で構成されます。リチウムを含む金属化合物を正極に、リチウムイオンを貯蔵できる黒鉛を負極に使用し、正極と負極の間をリチウムイオンや電子が行き来することで、エネルギーを蓄え(充電)、放出(放電)することができます。
リチウムイオン電池の充電と放電の仕組み
リチウムイオン電池は小型化が可能で、一般的に摂氏−20度(℃)から+60度(℃)まで幅広い温度で放電でき、充電と放電を繰り返しても劣化が少なく、高い電圧で大きな電流を流すことができる特性から、モバイル機器や自動車などの機器をさまざまな生活環境の中で長時間繰り返し駆動させることが可能です。
しかし、このように便利なリチウムイオン電池にも大きな欠点があります。電解液に可燃性の高い有機溶剤が含まれるため、電池の使用条件によっては発火、発煙、発熱などの危険な状況に繋がる恐れがあります。
液体の電解液を用いず、固体の電解質を用いればこれらの欠点を克服できる可能性があります。固体の電解質を用いた電池として最も早くから実用化されたのは、心臓ペースメーカーに用いられているリチウムヨウ素電池です。固体電解質を用いることで高い安全性と長期間にわたる信頼性を確保することができ、その安全性から、体内に埋め込むのに適した電池と言えますが、用途は限られていました。そこで、二次電池であるリチウムイオン電池に関しても、固体の電解質を用いた全固体電池とすることで、安全性に優れた電池を構成することが可能となります。リチウムイオン電池に固体電解質を使用することで、電池寿命や摂氏+100度(℃)以上の耐熱性など、リチウムイオン電池で課題となっていた性能を大きく改善しています。
一般的なリチウムイオン電池
全固体電池の構造
マクセルの全固体電池はここがすごい
マクセルで開発中の硫化物系全固体電池と、既に日本国内で販売されている酸化物系全固体電池を比較すると、それぞれにメリットデメリットがあり、量産性や想定される用途によって電池メーカーそれぞれが異なるタイプの全固体電池を開発しています。
マクセルでは、酸化物系全固体電池の製造工程にあるような高温下での焼成が不要で量産性が高く、高出力、大容量といった特長を持つ硫化物系全固体電池を開発しています。
さらに、マクセルの全固体電池は、硫化物系固体電解質の中でも量産性、安定性、イオン伝導性、成形性のバランスに優れたアルジロダイト型固体電解質を採用しています。これにより、充放電の繰り返しや長期保管に伴う抵抗上昇を抑制し、従来の電解液系電池に比べて長期サイクル後や長期保管後の高負荷時の放電容量を向上することに成功しました。
マクセルでは、電池の設計開発、製造を創業事業として、長年にわたり、リチウムイオン電池やマイクロ電池の開発と製造を行ってきました。
そこで培ったアナログコア技術「混合分散(まぜる)」「精密塗布(ぬる)」「高精度成形(かためる)」および他社との協業による技術を融合し、新たに開発したプロセス技術を加えることで高性能∗2かつ高信頼性∗3を有する全固体電池を開発しています。
国内にあるマイクロ電池やリチウムイオン電池の工場、設備、製造技術およびノウハウを活用することにより、セラミックパッケージ型全固体電池を量産しています。
- より詳しい技術情報は、お客様情報を入力のうえ「全固体電池」技術資料ダウンロードページで閲覧いただけます。
マクセルの全固体電池でなければならない用途とは
マクセルの全固体電池は、安全性∗4、電池特性(寿命、容量、出力)、耐熱性の3つの特長を兼ね備えた小型の次世代電池です。
従来のリチウムイオン電池を適用できず一次電池を使用していた用途や、リチウムイオン電池では使用条件によっては安全性に懸念が残る用途に使用することで、搭載機器の付加価値向上とともに、少子高齢化、労働人口の減少、環境保全などの社会課題解決に貢献できると考えています。
小型で高出力、安全、長寿命∗5、高耐熱∗6などの特長から、工場の自動化(FA: Factory Automation)、滅菌を必要とする医療機器、ウェアラブルデバイスなどに適しています。
工場の自動化(FA)では、ロボットの旋回する間接部分など、高温が想定される環境下でも繰り返し使用可能で、電池交換などのメンテナンス回数を削減できます。
滅菌を必要とする医療機器では、機器と電池部分を同時に高温となるオートクレーブ内で滅菌することができませんでした。耐熱性に優れる全固体電池を用いることで同時に滅菌することが可能となり、懸念されていた医療機器の衛生状態を保つことが可能になります。また、少子高齢化に伴い、生体モニタリングなどのウェアラブルセンサが普及するにつれて、体に密着する電池には安全性が求められます。
- 用途例の詳細は用途・協業事例をご覧ください。
さらに、将来の展望を描くうえで欠かすことができないのが自動車のADAS(先進運転支援システム)やEVの普及です。自動運転が進むにつれて車両のセンサの数が増え、突然の事故などによりメイン電源が故障した場合でもセンサを駆動できる非常用の小型バックアップ電池が、自動車本体、ドアやシートなど多くの場所に搭載されることが見込まれます。
また、タイヤの状態のセンシングにも有用です。これまで充電の問題から一次電池が使われてきましたが、センシング情報の増大からより大容量で過酷環境でも繰り返し使える二次電池が必要とされています。
マクセルでは、自然エネルギーを電力に変換するエナジーハーベストの技術と全固体電池を組み合わせ、これらの用途への実現に向けて日々開発を進めています。
- 高出力、高容量:全固体電池でありながら当社コイン形リチウム二次電池(937サイズ)の定格容量が8mAh、最大放電電流20mAと同等の特性
- 高性能:高耐熱、長寿命、高い安全性を示す
- 高信頼性:過放電貯蔵試験において、当社液系コイン形リチウム二次電池と比較した結果による
- 安全性:摂氏+350度(℃)加熱や釘刺し、外部短絡など、各種安全性試験において発火発煙無し
- 長寿命:加速係数から求めた予測寿命は20年レベルであり、一般的な電子部品寿命(例として絶縁部品)の5年と比較して長寿命
- 高耐熱:摂氏+125度(℃)まで放電可能であることから、一般的なリチウムイオン電池と比較して高耐熱