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ガルバニ電池式酸素センサの技術革新
鉛を使用しない∗1環境配慮型の酸素センサ

鉛を使用した酸素センサの課題

鉛フリー酸素センサ

ガルバニ電池式鉛フリー酸素センサ
「KE-LFシリーズ」

マクセルのガルバニ電池式酸素センサは、小形、軽量かつ常温で作動し、手軽に酸素濃度を測定可能なことから、酸欠防止用の酸素モニターだけでなく、医療分野、排ガス測定、バイオテクノロジー機器、食品保管、教育分野などさまざまな用途で使用されています。

一般的に酸素センサの電極(負極)には金属の鉛が使われています。一方で、鉛は有害物質であるため、土壌汚染や海洋汚染、人体への影響などのリスクが知られています。

鉛は自然環境のなかに存在し、食物にもわずかに含まれているため、私たちは日常的に微量の鉛を摂取しています。しかし、人間の産業活動によって土壌、大気、水などに排出された鉛が自然環境に蓄積し、生態系を汚染し、私たちの体内に入ることによって、健康に影響を及ぼすことが懸念されています。そのため、可能な限り環境中に鉛を排出しないことが重要とされています。例えば、一般家電や子どもの玩具では鉛の使用が規制され、世界中で鉛フリー化(製品に鉛を使用しないこと)が進んでいます。このように、鉛フリー化は現代社会において重要な課題となっています。

一方、ガルバニ電池式の酸素センサを鉛フリー化する技術は難易度が高く、鉛を使った酸素センサの代わりとなる技術は確立できていないと考えられています。2024年7月現在、電気・電子機器への環境有害物質の使用を制限する欧州RoHS指令∗2では鉛を使ったガルバニ電池式の酸素センサは適用除外とされており、今も世界中で使用されています。

  • 鉛を使用しない、鉛フリー:製品を構成する各部品(均一物質中)に含まれる鉛が0.1wt%以下であることを意味します。
  • 欧州RoHS指令:電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関するEU指令(2011/65/EUおよびEU2015/863)です。
適切に処理されなかった廃棄物に含まれる生態系の汚染と、人体への悪影響

適切に処理されなかった廃棄物に含まれる生態系の汚染と、人体への悪影響

酸素センサの鉛フリー化

マクセルは将来を見据え、環境に配慮した鉛を使用しないガルバニ電池式酸素センサの開発を研究課題として掲げました。10年以上の基礎研究を経て、2019年11月には負極に鉛を使用しないガルバニ電池式鉛フリー∗1酸素センサ「KE-25LF」、「KE-25F3LF」の開発および製品化に成功しました。

鉛を使わずに従来の酸素センサと同等の特性を実現するためには、鉛に代わる負極材料の選定だけでなく、正極や電解液といったセンサを構成する主な材料を抜本的に見直し、新しい電池構成にする必要がありました。貴金属からなる正極、スズ合金からなる負極、自社開発のクエン酸を主成分とする弱酸性電解液(pH4∼5)の採用により、両極の電気化学反応を円滑に進めることが可能となりました。その結果、鉛を使用しなくても従来品と同等の特性を実現することができました。(特性や原理の詳細については、「鉛フリー酸素センサ(O2センサ)」Webページ https://biz.maxell.com/ja/tokki/o2sensor.html をご参照ください。)

従来のガルバニ電池式酸素センサ
鉛を使用しないガルバニ電池式酸素センサ

従来品とガルバニ電池式鉛フリー酸素センサの構造

センサの隔膜は正極と接合されており、隔膜中をわずかに透過してくる酸素は正極上ですべて還元されます。その際、負極との間に生じる電流はセンサに内蔵している抵抗で電圧変換されます。

酸素センサを取り巻く環境規制(欧州RoHS指令)とマクセルの取り組み

マクセルでは、2019年のガルバニ電池式鉛フリー酸素センサ「KE-LFシリーズ」開発から数年の間に複数のモデルを製品ラインアップに加えてきました。鉛を使用した酸素センサの代替となる機種が揃い、さらに鉛フリー酸素センサが量産機器に搭載されるなかで、問題無く使用できていることが確認されました。このことから、主力製品である鉛を使用した酸素センサの販売を2025年3月に終了することを対外的に発表し、鉛フリー酸素センサのみを販売していくことを迅速に決断しました。

そのような状況下で、2024年5月、欧州RoHS指令における酸素センサの適用除外に関する評価レポートが発行されました。評価レポートでは、マクセルの技術やその取り組みを例に挙げ、負極に鉛を使用したガルバニ電池式酸素センサに取って代わる有効な技術として紹介されています。

また、評価レポートでは隔膜ガルバニ電池式鉛フリー酸素センサについて次のように述べています。

  • 市場で入手可能な製品が実証しているように、鉛フリー酸素センサは技術的に実用可能であると結論付けることができる。(p.426)
  • これらの理由から、適用除外の期間を延長する必要はなく、鉛フリー品への移行がますます実現可能かつ急務となっていることを業界全体に示すこととなる。(p.429)

参照:Final Report, Study to assess requests for 29 renewal requests concerning one specific EEE category and two (-2-) new exemption requests under the Directive 2011/65/EU, May 2024より抜粋。https://www.rohs.biois.eu/RoHS-Pack-27_Report_Final.pdf

今後、このレポートでの評価を基に欧州RoHS指令の適用除外が解除されれば、鉛フリー酸素センサがさらに普及し、世界中で鉛フリー化が加速していくと考えられます。

鉛フリー酸素センサの普及がもたらす未来

当社のガルバニ電池式鉛フリー酸素センサは、鉛をはじめ、RoHS指令が定める6物質(水銀、カドミウム、鉛、六価クロム、PBB類、PBDE類)とフタル酸エステル4物質(DEHP、DBP、BBP、DIBP)を含まない∗3環境配慮型製品です。

鉛フリー酸素センサを搭載した機器の普及によって、土壌汚染や水質汚染による生態系への影響が軽減されていくことが期待できます。マクセルは、ガルバニ電池式鉛フリー酸素センサの製造・販売を通して、環境負荷や人体へのリスクの低減に貢献していきます。

∗3 RoHS指令が定める特定有害物質を含まない:RoHS指令の対応Webページ内 https://www.maxell.co.jp/csr/rohs.html「RoHS指令基準値」参照

∗ この記事に掲載された情報は、2024年7月時点のものです。

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